地球惑星物質総合解析システム ~CASTEM~ とは

私たちの活動に必要不可欠な研究能力を磨きあげる中で,個々の異なる分析機器を互いに有機的に結びつけ総合的かつ先端的なデータを供給する、「地球惑星物質総合解析システム」(英語名 Comprehensive Analytical System for Terrestrial and Extraterrestrial Materialsの頭文字をとってCASTEMと呼ばれています。)が次第に形作られてきました。このシステムは,あたかもそれ全体が一つの分析機器として機能することをイメージしており,現在もさらに高い分析信頼性,空間解像度を伴う分析を目指し発展を続けています。

CASTEMでは、「当たり前のデータは当たり前に出す」、「人のふんどしは借りない」という方針のもと、一連の分析フローによって地球・宇宙化学で重要なほぼ全てのデータが系統的に出せるようになっています 。

全岩,あるいは鉱物の平均化学分析には、まず汚染が少ない環境下で岩石、鉱物の粉砕や鉱物分離を行ない、試料を調製する必要があります。粉砕された岩石粉等は蛍光X線分析装置 (XRF) での全岩主成分元素測定を行い、超清浄地球化学実験室内で酸分解や化学分離操作を行った後、誘導結合プラズマ質量分析計 (ICPMS) による59元素の定量分析を可能にしています。さらに、表面電離型質量分析計とマルチコレクター ICP-MS によるB−Li−Fe−Sr−Ce−Nd−Os−Pb−Hf等の精密同位体分析をルーチンとして実施しています。また分離した鉱物や有機物中に含まれる揮発性成分を分離精製し、高感度同位体比測定用質量分析計を用いることにより,H−C−N−O−S同位体分析を併せて行うことができます。

以上の高精度定量・同位体分析に加え、Rb−Sr、Sm−Nd、U−Th−Pb、 La−Ce、 Re−Os、 Lu−Hf、Mn−Cr、K−Ar法、およびU−Th−Ra放射非平衡を用いた年代測定によって絶対的な時間軸を決定することができる世界にも類を見ない年代測定技術を確立しています。またこれらの世界最高レベルの定量化学分析法を用いて、自ら局所分析用の標準試料を作成し、さらに外部の標準試料をも自前で評価できることは、我々のシステムの大きな特徴の一つと言えるでしょう。

局所分析のフローでは、岩石や高圧実験生成物などの試料から薄片を製作し、光学顕微鏡観察、フィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(FE- SEM−EDX−WDX−CL)、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)、二次イオン質量分析計(SIMS)、レーザーアブレーション・マルチコ レクター誘導結合プラズマ質量分析計(LA-MC-ICPMS)等の局所分析法を用いた鉱物単位の主成分元素、微量元素(REE,HFSE等)の定量分析 が可能です。必要があれば鉱物、メルト包有物のLi−B−Pb−O同位体分析、ジルコンを用いたU-Pb法年代測定等を行っています。また2010年春に は、物質進化を原子スケールから太陽系という連続空間の中で理解するため, ナノスケールの空間分解能を有するフィールドエミッション型透過型電子顕微鏡 (FE-TEM) と複合型集束イオンビーム加工観察装置 (FIB) が新たにCASTEMに加わりました。これらの局所分析機器群をシステムとして活用するため、光学顕微鏡、FE-SEM−EDX−WDX−CL、 EPMA、SIMS、LA-MC-ICPMS、 FIB、FE-TEM 各分析機器において分析座標を共有し、~数 µmレベルの分析位置(空間座標)を,分析機器を越えて再現するVisual Stage システムを開発・実装しました。これによってナノスケールレベルの局所分析と全岩分析をシームレスにつなぎ、分析の効率を飛躍的に高めるだけでなく、多くの表面分析機器をあたかも1台の機器として取扱った多角的な解析による、より厳密な議論を展開しています。

これまでに、隕石、マントル物質、火成岩、変成岩、海洋底堆積物、高温高圧実験生成物などを対象としてCASTEMの高度な分析技術によって重要な学問的成果を数多くあげてきました。 我々の研究対象は極めて広範な時空間に存在する(していた)物質であって、地球・宇宙化学という学問領域にとらわれるものではありません。近年は生体物質にCASTEMで培われた分析技術を適用し重要な成果に結びついています。