隕石の微小領域解析から見た初期太陽系物質進化

アエンデ隕石に含まれるコンドルール構成物質のリチウム濃度と同位体組成


    アエンデ隕石に含まれるコンドルールを構成する鉱物(オリビン、輝石、メソスタシス成分)のリチウム含有量と、コンドルールを構成するオリビンのLi 同位体比を、二次イオン質量分析法を用いて測定した。コンドルール中のオリビンのLi 濃度は1 ppm未満、長石質メソスタシス成分は0.1-0.6 ppmと枯渇した組成を示した。これらとは対照的に、Ca-poor な輝石は2.0 ppm程度、Ca-rich な輝石に似た組成のメソスタシス成分は1-8 ppm、そしてNa に富むメソスタシス成分は0.4-3.5 ppmと高い組成を示した。また、コンドルールの間を埋めているマトリックス成分のリチウム組成は、平均2.0 ppmだった。コンドルール中のオリビンのリチウム同位体組成および含有量には、明確なゾーニングは殆ど見出されず、また同じオリビン粒子内部でも非常に不均一だった。測定したコンドルール全体では、δ7Li は-32 ‰から+21 ‰まで非常に幅広い値を示した。オリビン内におけるリチウムの拡散距離は、アエンデ隕石の母天体中で熱変成作用(ピーク温度400 ℃程度)が100 万年続いた場合、最大でも数µm 程度しか拡散しないと見積もられた。したがってリチウムの組成的・同位体的不均一性は、コンドルール前駆物質に含まれていたリチウムの不均一性を反映しているものと思われる。

     アエンデ隕石は母天体内部で水質変質作用と熱変成作用を経験しているが、これらの過程で鉱物中のリチウムが移動し、元々の含有量・同位体組成の分布が変化している可能性がある。分配係数を考慮すると、コンドルール内で最後に固結したメソスタシスは最もリチウムに富む組成になると推定されるが、実際にはNa に富む成分(二次変質作用で生成)を除く2成分がオリビンと同程度、リチウムに枯渇していた。この原因としては、二次変質作用の過程で流体によってリチウムがメソスタシス成分から取り去られる”leaching ”が考えられる。数ppmレベルのリチウムがマトリックス成分中に保持されてはいるが、CVコンドライト隕石母天体中のアエンデ隕石が発生した領域からは、多量のアルカリ元素が流体によって抜き去られたと考えられる。

     棒状オリビンコンドルール(BOC)のB9を構成する物質のリチウム濃度分布。B9コンドルールは、二つの斑状オリビン・コンドルール(POC)がBOCに付着した、複合コンドルールである。各分析点のリチウム濃度は、円の大きさ(小-低濃度、大-高濃度)と分析点の色(黒-低濃度、赤-高濃度)で示されている。黄色の円はオリビン(Ol)、緑はカルシウムに乏しい輝石(low-Ca Px)、オレンジはメソスタシス成分(Meso)、青はマトリックス(Mtx)に対応する。右上の図は、B9 BOCの合成X線像である(赤:Mg、緑:Ca、青:Al)。オリビンのリチウム濃度分布は非常に不均一である。また、長石質メソスタシス成分は、全てのコンドルール構成物質の中で最もリチウムに枯渇している。

    Model Figure

     アエンデ隕石に含まれるコンドルールの構成物質のリチウム濃度分布が形成される過程を示した図。リチウムの濃度が高い部分は黒、低い部分は白で示されている。(a) 様々なリチウム濃度を持つコンドルール前駆物質が過熱現象によって溶解する。コンドルール間のリチウム濃度の差異は、この段階で発生する。(b) コンドルール前駆物質の溶融液滴が固結し、コンドルールが形成される。リチウムは最後に固結したメソスタシス成分に濃集する。(c および d) コンドライト隕石母天体が付着形成された後、コンドルール中のメソスタシス成分中に含まれるリチウムは、水質変質の際に、流体によって取り去られる("leaching")。コンドルールを囲むマトリックスは、メソスタシスやマトリックス前駆物質からリチウムの供給を受ける。(e) 長石質メソスタシス成分はアルカリ元素に富む流体と反応し、コンドルールの縁に近い部分や鉱物間の境界部分に、ナトリウムを含むメソスタシス成分が優先的に生成される("nephelinization")。

    Maruyama, S., Watanabe, M., Kunihiro, T., Nakamura, E., Elemental and isotopic abundances of lithium in chondrule constituents in the Allende meteorite, Geochim. Cosmochim. Acta, 73, 778-793, 2009. external linkAbstract (Science Direct)